子供の目から見た離婚(カウンセラー兼行政書士西田和雅の体験記)

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離婚に対する恐怖と不安

離婚問題を専門に取扱う私ですが、私自身に離婚の経験はありません。ただ、私の母親は二度の離別を経験しておりますので?子供の目からみた離婚?という形で、体験談をご紹介してきましょう。

私の家は元々、野菜・果物・肉・魚などの食品から日用品までを販売する小売店を経営していました。私は三人兄妹(妹二人)の長男だったので、父は将来私に店を継いで欲しいと思っていたようです。

子供ながらにそんな父の気持ちを理解し「将来は何になりたい?」と聞かれたら「お店がやりたい!」と答えていました。調子がいいというか何というか、変なところで気を遣う子だったかもしれません。

父は天性の明るい性格の持ち主で、お客さんからは結構好かれていました。わかりやすく言うと、今は亡き横山やすしさんのようなタイプですね。何かといえば「心意気」「人情」「男は度胸」と言い出す出す熱い男。

歌を歌うのが大好きで十八番は「刃傷松の廊下」と「浪曲子守歌」。店にカラオケを置いて客に演歌を歌って聞かせるくらいのお調子者です。

パチンコ好きで、息子の私も何度も連れて行かれましたものです。教育上は多々問題のあると思いますが、幼い私にとってはとても良い父親でした。

しかし、小さなことに捉われない人であった半面、小さなことに気付かない人でもありました。旅行の約束をしてもすぐに忘れますし…元々約束を守ろうという意識が足りないのです。要するに、ルーズということです。

約束を破ってもあまり反省がなく「悪かった」と適当に謝るだけで、しつこく責められると「細かいことを言うな!」と逆ギレです。人は良いのですが下手なのです。生き方が。

そんなルーズな父に対し、母はかなり厳格な性格の持ち主です。約束を守らない、いい加減な父を母はどうしても許せません。

1日でケロッと忘れる性分なら良かったのですが、母は不幸にも人一倍記憶力が良く、父の悪い部分を逐一覚えています。ですから、ことあるごとに過去の話を持ち出し、いかに父がいい加減かを語り始めることが多々ありました。

過去の話しているうちに当時の怒りもよみがえり、また腹が立てて怒り出す・・・という悪循環。これでは上手くいくはずもありません。

母は毎日のように父の悪口を言うようになりましたが、私はそんな中でも、自分の両親が離婚するなどとは夢にも思いませんでした。しかし、私が小学4年生になった頃、母は唐突に

「お母さんはお父さんと別れるから」

と私に告げました。何が起きているのかさっぱりわからず「え?別れるって?どういうこと!?」と聞きなおすしか私には術がありません。

どうしても今の現状が頭に入ってこないのです。「お父さんが嫌いになったから別れるの!」このとき、辛いとか悲しいという感情は一切無く「信じられない」というのが私の正直な気持ちでした。

そしてその次に沸き起こったのが「これからどうなるんだろう?」という恐怖と不安。別れる当事者の大人でさえ、離婚後の生活に対する不安が大きく、離婚という選択をするのにためらいがあるのです。

自分の意思とは無関係に起きる環境の変化に巻き込まれるだけの子どもが、恐怖と不安を持つのは当然といえば当然です。

子供はみんな「離婚は嫌!」

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別れたくて別れられる人は幸せです。自分にとって最悪ともいえる状況から抜け出せるわけですから。離婚すれば、少なくとも離婚前よりは精神的に落ち着きます。離婚した人の8割以上が「離婚して良かった」と感想を述べていることからもそのことがよくわかります。

それでは子供の立場から見た両親の離婚はどうでしょう。体験した私から言わせていただくと「子供はみんな離婚は嫌」です。

虐待などの特別の事情がない限り、子供は父親も母親も好きなのが普通です。どちらかと別れて暮らすのは嫌なのです。

別れたくて別れた親」と「別れたくないのに別れさせられた子ども」のどちらが本当の被害者なのでしょう。離婚をする方々にはこのことをよく考えていただきたいと思います。

母の口から一旦離婚の話が出ると、瞬く間に新たな展開へと突入しました。母は、ある男性と一緒に暮らすと言うのです。その男性とは、いつの頃からか両親と仲良くなった我が家の小売店のお客さんの一人でした。

どのような経緯で仲良くなったのかは私にもわかりません。しかし、家に来るといつもおもちゃをプレゼントしてくれる人だったので、単純に「いい人」と思っていました。

そんな人が母と一緒に暮らす???私には何がどうなっているのかさっぱりわかりませんでした。母に「僕はどうなるの?」と聞くと「お父さんは跡取りの和雅(長男)だけはいるって言ってるけど、子どもは3人とも私が連れて行くから」と言われました。

私は父に「必要な子かどうか」を選別されたことがとてもショックでした。私は嘘でも「子どもは全員引き取る!」と言って欲しかったのです。

「跡取り」という理由で選ばれたのも悲しく思いました。私個人ではなく「家」のために必要としていたことが、小学4年生の私でも理解できたからです。

結局、両親の間で「長男をどちらが引き取るか」という点で争いになりました。しかしいくら話しても結論が出ません。そうなると、次に親がとる行動は・・・そう…「子供の意思を聞こう」となります。私は父にこう言われました。

「和雅はお父ちゃんとお母ちゃんとどっちと暮らしたい?」
「お父ちゃんと一緒に暮らしたか?暮らしたいよな!」
「もし嫌って言うんなら父ちゃん死ぬで!」

私は今でもその時の光景が脳裏から離れません。「本当に死んでしまうかも…」と思うほどの勢いが父にはあったからです。

子どもに親は選べない

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しかし私は父にどういう答えも出せませんでした。当然です。父も母も好きなのですから。「子どもに親は選べない」そんな子供の気持ちをわかって欲しかったです。

結局最後は、例のおじさんが「どんなことがあろうと子ども三人をキチンと育てます」と約束したので、父も泣く泣く手を引きました。

かくして、母と私を含めた子ども三人は、新しい男の人(例のおじさん)と一緒に暮らし始めることになったのです。

両親が離婚した当時、私は小学4年生。法律のことなど何も知りません。離婚する際に一体何を決めておくべきか、などということは頭の片隅にもありませんでした。

しかし、離婚問題の専門家になった今では、あまりにいい加減な離婚の現実が見えすぎてしまい、残念でなりません。母は

「養育費は要らないから二度と子どもに会いに来ないで!」

と父に迫りました。養育費も面会交流権も子供の権利です。その権利の主体である子供の私が「父親に会いたい!」と思っているのに会わせてもらえない・・・。おかしいですよね。親の勝手で放棄して良いものではありません。

皆さんはお分かりでしょうか。母は、元夫と会いたくないがために、その代償として養育費を充てたのです。私も離婚の手続きをしていくと、これと同じ事例がどれほど多いかに驚かされました。

離婚した母親の中には「前夫との関係を断ちたい」という思いから、養育費の免除を条件に面会交流の放棄を迫ります。

養育費を受け取る権利も、実父と会う面会交流権も子供の権利です。しかし、法律は基本的に、法律を知っている人を保護するだけなので、実際は誰もそんな子供の権利を守ってはくれません。

親が求める「理想の家庭」

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そして例の「おじさん」との生活が始まりました。新しい生活にはかなり不安がありました。そう簡単に新しい生活には慣れることはできません。その辺のことは母もおじさんもある程度わかっていたのでしょう。

子どもに刺激を与えないように配慮する姿勢も多少感じられました。ただ、それも最初の頃だけ。次第に二人は自分たちの「理想の家庭」の形に子供をあてはめようとしてきました。まず最初に母に言われたのが次の二点。

「これからはおじさんのことを”お父さん”と呼びなさい」
「二度と前のお父さんの話をしてはいけません」

私はこんな強制が嫌でたまりませんでした。なぜ父と思えない人を「お父さん」と呼ばなければならないのか? なぜ嫌いでない実の父の話をしてはいけないのか?強制されると余計に言いづらくなりました。

私の妹二人(当時3歳と8歳)は、時間とともに少しずつ「お父さん」と呼ぶようになりました。しかし、私だけはどうしてもその一言が言えません。「個」がある程度出来上がっていたせいもあるのか、心の中の葛藤がどうしてもそれを許せないのです。

そんな葛藤で一杯のところ、親の理不尽な言動に首をかしげることも多々ありました。「二度と前のお父さんの話はしてはいけない」と言っていた母が、子供たちを叱るときに度々「悪いところばっかりあの父親と似てるんだから!」などと、禁句であるはずの父親の話をするのです。今から思えば「大人なんてそんなもの」ですが、当時の私は「なぜ?」「どうして?」と悩みました。

そして辿り着いた考え方が「親は信用できない」です。

家族の中で孤立した私

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人頑なに「お父さん」の一言を拒否し続ける私に「おじさん」がイライラしているのは子供ながらにもよくわかりました。

そんなある日、私が日中に電気をつけてトイレに入ったとき、トイレから出てくるなり、おじさんに「電気を点ける必要がどこにあるんだ!」と言ってかなり強烈に殴られ、凄い形相で睨みつけられました。

私はそれまでの人生で、そんなに激しい”しつけ”を受けたことがなかったので、強烈なショックと恐怖感を味わいました

それからというもの、私はおじさんの前で一切自分の感情を出さなくなりました。一日の中でおじさんの前で話すのは「おはようございます」「いただきます」「ご馳走様でした」「お先にお風呂いただきました」「おやすみなさい」という5つの挨拶だけ。恐怖心が先立って話ができないのです。

心を開かない私は次第に家族の中で孤立していきました。食事をしても、私が一番に食べ終え、すぐに席を立ちます。皆が一緒にテレビを見ていても、私だけ別の部屋で一人時間を潰します。

そんな私を快く思わないおじさんは、次第に私に対する憤りの感情をあからさまに出してくるようになりました。

たとえば、私はどうしても9時から始まるアニメ映画を見たいと思ったときの話です。当時、家には一応ビデオはあったものの、子供の使用は一切許されていなかったので、そのアニメを見るためには「おじさんの許可」を得る必要がありました。そう、当時の私はテレビ番組の予約をするにも許可が必要だったのです。

それまで一度も録画をお願いしたことはありませんでしたが、この時だけはどうしても観たかったので、勇気を振り絞り、「録画してください」とお願いしました。するとおじさんは言いました。

「お前にビデオを使う資格はない」

私はそれ以降、二度とテレビもビデオも見ようとは思わなくなりました。実際、私は新たな生活が開始してから約3年間、まったくテレビを見ませんでした。

私以外の家族が皆テレビを見ながら家族団欒の一時を過ごす中で、私だけ一人別の部屋で過ごすのです。この頃はもう家が地獄のように感じられました。

自己主張の自由

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私は今になってやっと、なぜ自己主張できなくなったかが分かりました。私はDV被害者と同じような状況に置かれていたんですね。DV被害者が「自己主張の自由」を得る前提に必要なもの、それは・・・

生活面・精神面など、広い意味での”安心”
“I am OK”という”自信”

この安心と自信の二つが揃ってはじめて「自由な自己主張」が可能になるのです。当時の私には安心も自信も自己主張の自由もありませんでした。ですから、家での生活は本当に苦痛そのものでしたね。ただ、幸いなことに私にたった一つ「救い」がありました。

これもDVの場合と同じなのですが、身体的・精神的・性的暴力を受けた子ども達には、非行に走るか健全に成長するかの分岐点があると言われています。

その分岐点に「あるもの」があれば人は健全に成長し、逆に無いと非行に走る・・・それは一体何だと思われますか?それは・・・

真剣に話を聴いてくれる人

の存在です。親族でも友達でも学校の先生でも、自分の素直な気持ちをぶつけることができ、それを受け止めてくれる人なら誰でもいいのです。私にはそんな気持ちを打ち明けられる友人がいました。仲間がいました。

家に居場所は無かったけれど、学校には居場所がありました。家に居るのが苦痛に思う反動で、学校に行くのが嬉しくて仕方ありませんでした。だから私は非行に走らずに済んでいたと思います。

時には過酷な人生や冷たい世間の風を感じることがあるけれど、世の中捨てたもんじゃない、と思える他人の優しさや温かさにに助けられることもあります。

当時の私は、周りの人たちに助けてもらっている認識はありませんでした。でも、今冷静に振り返ると、確かに私は助けてもらっていました。当時は自分一人で生きているような気持ちでいましたが、本当は目に見えない大いなる力に生かされていたんですね。

だから「自分も何か返さなきゃ」と思います。今の自分にできること・・・それは、人生のどん底のような思いをぶつけられることの多い夫婦問題の相談で、まずは「真剣に話を聴く」ということです。

簡単なようですが、本当はこれが最も難しく、最も重要なことではないでしょうか。偏見に満ちた世の中だけれど「世の中捨てたもんじゃない」と思ってもらえるような希望の星になりたい・・・そんな思いで今私は夫婦問題の相談を行っています。

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